ブッフブルギニョン(Bœuf bourguignon)はフランス、ブルゴーニュ地方の郷土料理で、牛肉を赤ワインで煮込んだ料理で、付け合わせにマッシュルームや子玉ねぎ、ベーコンなどを添えることが多いです。
代表的なフランス料理として世界的に有名で、英語ではBeef Bourgignonと訳されることもあり、世界的に知名度があるぶん、レシピの数も多くなります。
ガストロノミー(美食の世界)では古くから語られてきましたがブルゴーニュの名物料理としては意外に歴史は浅く、1867年とも1878年ともされています。
ここでは当店の名物料理であるブッフブルギニョンを、歴史や主なレシピとともに紹介します。
ブッフブルギニョンとは?
ブッフブルギニョンの歴史
もともとブルゴーニュ地方では一般のご家庭で固い部分の牛肉を赤ワインで煮込む料理はあったようですが、現在でいうブッフブルギニョンとは似ても似つかないものだったようです。
というのも昔の赤ワインの製法は現代ほど色が強く出るものではないので、茶色がかったデミグラスソースの様な色は出づらいですし、ご家庭ではブラウンソースを簡単に作れるほど調理用具も食材も発達していなかったはずです。
19世紀になり、フランス料理が近代化の始まりをむかえるようになると、いくつかの料理辞典で、「ブルゴーニュ風」の料理が出現するようになります。
多くの場合は、ブルゴーニュ風と名乗ると赤ワインを調理に使っていて、ウサギとか仔羊のもも肉などを煮込む調理法として紹介されていたようです。
ただしもともとが煮込みに使う部位については固い部分や悪くなったものを使っていることが多く、決してブルゴーニュ風料理の評判は良くなかったようです。
ところが20世紀に入ってフランス料理が知名度を上げてくると、パリで「牛肉のブルゴーニュ風」の料理名が並ぶようになります。
20世紀までは”牛肉を赤ワインで煮込んだ料理”と”ブルゴーニュ風”とは紐づけられていなかったのですが、これが20世紀に入ってパリのビストロで紐づけられるようになるのです。
おそらくパリのフランス料理が世界的に注目される中で、牛肉のシチューに何かいいネーミングはないかと考えたシェフが紐づけたのではないかと思います。
実際にフランスでも現地のブルゴーニュよりもパリの方がブッフブルギニョンの人気は高いようで、パリのビストロではブッフブルギニョンは大人気メニューとなっています。
もともとは大衆料理?
煮込みの料理ということになると、ビーフシチューの様な茶色のソースでじっくり煮込んだような、いかにも手の込んだ料理をイメージをすると思います。
ですが実際のフランス料理のブッフブルギニョンはもっとしゃばしゃばしていて、決して現在のように洗練されている料理ではなかったのです。
というのも、もともとブルゴーニュワインは繊細で味わいも決して重めのものではなく、渋みも強いワインではありません。
だからブルゴーニュワインで煮込んでも色合いはそこまで濃くはならないはずです。
↑の画像はフランス版ウィキペディアのブッフブルギニョンですが、アイキャッチ画像のブッフブルギニョンは色も薄く、なんというか決して美味しそうには映らないと思います。
もともとは焼いただけでは固いような部分のお肉を赤ワインでマリネして、柔らかくして食べられるようにとの思いからご家庭で食べられてきたものなのでこれが本来の「牛肉のブルゴーニュ風煮込み」なのでしょう。
ただし、パリのシェフがこれをそのまま披露してもウケないし、評判も良くはないだろうといろいろ研究して現在の形にしたのです。
日本でのブッフブルギニョン
1960年ころからフランスで修業した日本人シェフが1970年から1980年頃に帰国し、日本のグルメ界にフランス料理ブームが起きます。
これまでは大手ホテルのメインダイニングでしか味わえないようなフランス料理だったのが、優秀なシェフが街場で腕を振るうようになり、一気に親しみのある存在になるのです。
1980年代から1990年代では、日本で本格的なフランス料理が一般市民にまで浸透したタイミングでした。
こうなるとシェフが考えるのは「これぞフランス料理という料理」でしょう。
いきなりシェフのオリジナリティあふれる料理をぶつけられてもお客は理解できないし、まずは代表的なフランス料理が人気となるのです。
そのうちのメニューがブッフブルギニョンで、牛肉をじっくり赤ワインで煮込んだ「いかにもなフランス料理」はどこのお店でも看板メニューで、シェフは競ってブッフブルギニョンを作るようになるのです。
そうなるともともとの色の薄いブルゴーニュ風家庭料理では物足りないし、お金も取れないとなりますから、どんどん味わいは洗練されて行って、現在の様な形になったのです。
一般的なブッフブルギニョンのレシピ
ブッフブルギニョンに決まったレシピはないのですが、まず牛肉は煮込んでおいしい部位であればこれと決まったものは無いようです。
多いのは牛バラ肉やすね肉、肩ロース肉でしょう。
またフレンチレストランでは大人気の牛ほほ肉も煮込むことで大変に柔らかく美味しくなります。
煮込む際には、「ブルゴーニュ風なんだからブルゴーニュワインだろ」と思われるかもしれませんが、おそらくほとんどのフレンチレストランではブルゴーニュワインは煮込みには使っていないはずです。
というのもブルゴーニュワインは高いし、煮込んでしまうと風味もそこまで料理に生きるわけではないですし、そもそも色が濃くないので煮込みに向かないのです。
多くのシェフは煮込みに使う赤ワインは特に産地にもこだわらず、色の濃い赤ワインを選んで用いています。
もしくは煮込みの際には別の赤ワインを使って、最後の仕上げにブルゴーニュワインをつかう、などの工夫をしています。
付け合わせはマッシュルームや子玉ねぎ、にんじんのグラッセなどが多いようですが、これにも決まりは無いようです。
実際にパリのビストロでもにんじんは煮込む際に溶けてしまって原型がないものや、そもそも牛肉以外の食材は(見える部分では)ないものも多いです。
ブッフブルギニョンは単体ではソースが煮詰まっていて味付けが濃くなりますので、付け合わせにポテトのピュレや、ヌイユと呼ばれるパスタなどが添えられることも多いです。
ブッフブルギニョンに合わせるワイン
ブッフブルギニョンは牛バラ肉やすね肉、ほほ肉などを煮込みますので、それらの部位は煮込まれることでゼラチン質が溶けだし、ねっとりとした食感になります。
通常は見た目は色の濃い茶色をしていて、味わい全体も濃く、凝縮したものに感じるはずです。
そのためワインと料理の味わいで考えると濃い口当たりの赤ワインが定番となりますが、こうなるとブルゴーニュワインよりもボルドーワインの方が合わせやすいこともあるでしょう。
ブルゴーニュワインですとACブルゴーニュの様な広域のワインではなく、村名クラスか1級クラスくらいのワイン、ジュヴレシャンベルタンやポマールなどの、ブルゴーニュの中でも濃い味わいのワイン産地が良く合います。
ただし、ブルゴーニュワインに限らず赤ワインであれば比較的どのワインでも合わせやすく、渋みのある程度あるワインであれば味わいにかかわらずブッフブルギニョンは良いペアリングになるはずです。
そのううえで、最適なペアリングとすると、ブッフブルギニョンは凝縮して肉の風味が生きた濃い味わいなので、ある程度格の高い高級ワインが合うはずです。
ブルゴーニュであれば1級クラス以上、ボルドーであれば格付けシャトー、良い銘柄のリオハやバローロなどのワインやカリフォルニアなどのカベルネソーヴィニョンがお勧めです。